鎮魂のうた

庭の焼場にひねもす煙絶えず草を供えて合掌をしき
病院の敷地の一隅に、焼場があった。病院で死亡した人はそこで焼かれた。
山西に作戦がつづくと、傷兵が、トラックで運ばれてきたが、死者もふえて、焼場に運ばれた。
供えたくとも、一茎の花もなくやむを得ず、近くのたでに似た草を束ねて、焼場に供えた。
ふるさとであれば、肉親にかこまれて、別れの儀式が営まれるであろうが、黄土戦野の一画なので、殺風景なものであった。
手を合わせるのは、二名の看護婦だけ。
ことば少なに、煙の行方を見守った。
そして骨は、白木の箱に納められ、それぞれ、故郷に、無言の帰還をした。
花田ミキ「鎮魂のうた」19-20p

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