夜の点呼

点呼待つ北支の病舎は静もりて週番士官の靴音を待ちき
毎夕、午後八時には、日夕(ニッセキ)点呼があり、タスキをかけた週番士官の軍医が病棟をまわった。
その足音が聞こえると、病舎の廊下に、夜の勤務者の、兵や看護婦が整列して、点呼を受けた。
「第〇病棟患者、担送〇名、護送〇名、独歩〇名、異常ありません」と大声で、看護婦が報告した。
あらかじめ、ベットをととのえ、起坐できる病兵は、ベット上に坐り、重症者はねたまま、病舎を一巡する士官に目礼した。
カツカツと士官の靴音が遠去かり、病舎の夜は更けていった。
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平成14年(2002年)に花田ミキさんが自費出版した「~20世紀におくる~鎮魂のうた」という記録集があります。従軍看護婦として戦場に赴いたときの記録集です。
この経験から「命を阻むものはすべて悪」という強い信念を持つようになった経緯を感じていただけると幸いです。
当時の野戦病院の緊張と、そこにいる人たちの息づかいが感じられます。
今回の記事に「鎮魂のうた」のすべての話のタイトルを載せています。
鎮魂のうた~20世紀におくる~
I. 日中戦争と病院船
 日中戦争と病院船 地獄の鐘
 江岸のむくろ(南京)
 泥足の兵たち(南京)
 汕頭(スワトウ)作戦 
 霧笛(ムテキ)
 還りなば(上海)
 藻(モ)のからむ病衣(広島・宇品港)
 珠江(シュコウ)をさかのぼる(広東)
 広東野戦病院
II. 黄土戦野の病院で
 紫藍色(チアノーゼ)の唇
 花もなき別れ
 明日しれぬ別れの日
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 夜の銃声
 真冬日は続く
 死線をくぐったものたち
 ベンチを腰に
 男女別勤務
 帰る日はいつ
 武漢に転身
 華北の病兵たち
 少年・張(チャン)
 しおりのようなひととき
III. 第二次世界大戦と私~生と死の海で~
 育てればとられてしまう
 初萩の門
 日米開戦の朝
 非常準備
 鱶(フカ)も敵
 水漬く屍
 少年兵の声
 東条艇が航く
 潮を浴びて
 ゆきかう手旗信号
 つらい船酔い
 大きな虹
 幽鬼の群れ
 軽き担架
 水恋い
 山中の敗走
 IV. ふりむけばーーそしていま
 十四歳
 遺されし子ら
 八月の面影
 修羅の青春
 苦しい暮らし父母からの手紙
 色をうとむ
 われらカナリヤ
V. 二十世紀におくる鎮魂のうた
 戦争の世紀
 泥沼の日中戦争
 疲れ切った銃後
 若ものたちのいのちを返せ
 自らむちうって

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