死線をくぐったものたち

傷兵ら病舎のベットをもやしつつ河北の遠き春待ちかねし
トーチカの扉をもやせしは誰 森閑とせしのみなりし朝の病室
手当たり次第に、木製品をこわしてもやした傷兵たち。廊下のナガシも裸にされてしまった。
ついには、病院のただひとつの抵抗施設である、院庭のトーチカの扉がもぎとられた。
これには、病院の庶務主任が怒って、「誰か!」と犯人さがしがはじまった
だれも答えるものはいない。
やっと死線をこえて来た兵たちの「あと捨てるものは命だけ」という図太さと行動力には、「さすが!」とさえ思えた。
春まだ遠い石門の真冬であった。
(注)トーチカ・銃眼をつけたコンクリートの防塁

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