星は美しいね。でも、わたしたちは、地獄を見ているのね

最前線の島で収容した傷病兵の一人が、せっかくの給食に手をつけない。「ガダルカナル島で餓死(がし)した戦友に、一口、食べさせたかった」。涙が、つつーっと、ほほを伝わって落ちている。

「お母さん、おかあさーん」。泣き叫ぶ少年。乗っていた輸送船を沈められ、漂流中、しりの部分を、サメに食いちぎられた。そのサメの大きな歯型が、はっきりと残っているのだった。

夜光虫の海。南十字星が中天にあった。見張り当番の花田のかたわらで、やはり双眼鏡を持つ同僚看護婦が、ひっそり、つぶやいている。

「星は美しいね。でも、わたしたちは、地獄を見ているのね」

「地獄をみているのね 病院船がゆく:4(50年の物語・第25話)」(朝日新聞朝刊、1995年2月2日)

--

太平洋戦争がはじまると、看護師までもが交代で見張りにつくようになりました。病院船は「常時、非常態勢」となります。

天上に輝く「美しい星」が、ひとときの休息になっていたらと思います。

f:id:hanada_miki:20210830162611j:plain