2023-01-28 紫藍色(チアノーゼ)の唇 「高橋、がんばれ!」と手術室の介助者がはげます。 息づまるような雰囲気の中で、次第に、脈拍が弱く、とぎれがちになった。 「脈拍(ブルス)ありません。」私が叫ぶ。 宇井軍医は、「水をのませろ!」と言った。 水呑みで、高橋一等兵の唇に水を注いだがすでに、紫藍色の唇は吸う力がなかった。 しばし、手術室は沈黙。 軍医がメスをおき、手術帽を脱ぎ、瞑目した。 みんなは頭を垂れた。 介助の看護婦の嗚(オ)えつの声が聞こえた。 河北、石門陸軍病院の夜は深く、またひとり、若もののいのちが失われた。 「鎮魂のうた」17-19p readyfor.jp