ペンチを腰に

針金の副木切るとペンチ提げ外科の病舎をめぐりしかの日
腕折れし兵に副木そえやりて「重爆(ジュウバク)さん」と呼びし夏の日
重症の傷兵次ぎし病棟に上肢副木(ジョウシフクボク)の兵ら援けくれし
整形外科医はいない、理学療法士は大戦後の職業なのでもちろんいない。戦傷者には骨折が多かった。やむにやまれず金網の梯状副木をペンチで切り、綿花でくるんで創部にあてた。急造の副木であった。「肩を直角に、九十度に肘を曲げて、前方に」と上肢骨折の患者に副木をあてると、重爆撃機に似ていたので「重爆さん」と呼んだ。戦争がつづき、重爆さんたちがふえていった。このまま、無事に日本に後送されるように…と祈った。

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