色をうとむ

軍服につらなる色と身につけずカーキ色うとみ五十年経し
いつの間にかカーキ色の衣類を身につけなくなっていった。
私ばかりかと思っていたが、友人にも同じ思いの人がいる。
カーキ色、軍服、兵士のにおい、歩調とる軍靴のザックザックというひびき、地平線までつづく黄土の広野、傷兵をのせたトラックとヘッドライト、救急の戦傷者、励ます声、うめく声……
カーキ色につらなる思いはひろがる。
果てしなく、私の戦後は、まだおわらない。
「鎮魂のうた」90-91p

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