八月の面影

火祭りの灯影にうかぶ面影は勝つと信じて死にし若きら
八月の青森の夜は、ネブタをとりまいて、老若男女が怒涛のように踊り狂う。
短い夏に、北国の情熱を爆発させるかのようである。
ゆらめくネブタの灯影に、私は、幻を見る。
それは、かつての戦争のとき看護した傷病兵たちの面輪なのだ。
貫通銃創や盲管銃創で苦しみながらも、兵たちは、子どもの写真をみせてくれた。
「この兵たちのふるさとには、こんなに愛くるしい坊やがいる!」死なせてはならないと、そのつどゆさぶられた。
しかし、なくなる兵も多く、写真のあどけない顔を思い浮かべては、泣いた。
あの顔、この顔が、浮かんでは消え、ネブタの灯影と交錯しながら、たちまち五十年前の戦争に私を巻きもどす。
顯(タ)ってくる若い兵たちの面影と、踊り狂うハネトの若ものたちとの、あまりの落差。
平和の世も知らず、勝つと信じて死んでいった彼らのことが、胸をしめつけ、夏ごとに私は涙する。
「鎮魂のうた」85p

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