高度経済成長さなかの1960年代で、青森県の乳幼児の死亡要因は未熟児によるものが多かった

高度経済成長期に母子衛生対策が積極的な展開を見せたのは、1965(昭和40)年8月18日に公布され、翌年1月1日から施行された母子保健法があったからである。同法は母性の保護尊重、乳幼児の健康の保持増進をうたい、国や地方公共団体にも母子保健に関する責務があることを明らかにしていた(厚生省五十年史編集委員会『厚生省五十年史(記述編)』財団法人厚生問題研究会、1988年)。しかし、青森県で母子衛生が特に重要視されたのは、歴史的にも長期にわたって、青森県の乳幼児死亡率が全国1位の座を占め続けていたからである。

青森県の「三大ホーム」と称して、青森駅のプラットホームの長さ、トラホーム(正式にはトラコーマ)の患者数、スイートホームの人数が、いずれも全国1位を占めると揶揄されることがある。スイートホームは新婚夫婦の意味ではなく、子どもの出生率を意味していた。戦前の青森県出生率の高さは、昭和農村恐慌で生活難にあえぐ人々を続出させ、欠食児童や身売りの女性を多発させた。しかし青森県では、乳幼児の死亡率も戦前から高い地位を占め続けてきたのである(中園裕「知られざる青森県13 青森県の三大ホーム」『グラフ青森』2006年1月号)。

戦後以降、乳幼児の死亡率は徐々に減少していったが、依然として全国の上位を占め続けてきた。高度経済成長さなかの1960年代で、青森県の乳幼児の死亡要因は未熟児によるものが多かった。それも生後1か月以内の新生児が多かった。これには、子どもが生まれる前後の母親と、周囲の環境が大きく起因していた。

特に農業を主産業とする青森県の場合、農村地帯における母親の環境は出産事情に多大な影響を及ぼした。農村地帯にはへき地も多く、無医村無医療の地域が多く存在する。さらに農繁期に出産が重なることで、母体に無理が重なり、流産や早産が生じたり、生まれても未熟児だったりすることが多くあった。農村における農繁期の乳幼児の育て方については、『県政のあゆみ』に掲載された県立青森高等看護学院の研究成果を資料263として紹介しておく。当該資料からは、乳幼児の環境の劣悪さがよく理解できると思う。

こうした劣悪な状態を改善するため、青森県では母子衛生が非常に重視されるようになった。1969年の段階で公衆衛生課長補佐だった花田ミキが、同年7月号の『県政のあゆみ』で「健康な子を産み育てるために」と題して、母子衛生対策をまとめている。当時の県当局の衛生対策を知る上で参考になろう。

母子衛生の現場を担い、母子共に健康であるために活躍したのが保健婦である。保健婦の活動が期待されたのは、母子衛生対策を中心に、へき地医療の問題を解決するためでもあった。その具体策として、1965年より保健所の保健婦を無保健婦の町村に派遣することができるようになった。

こうした事情もあって、保健婦については『県政のあゆみ』でも多くの活動報告が紹介されている。それらの中から、本項ではへき地での活動に奔走する保健婦の活動を、広報課の職員が取材した資料264の手記から紹介したい。交通事情も劣悪なへき地で働く保健婦の活動が、いかに大変だったかが理解できる。そして記録された内容は、当時の衛生事情を知る上でも貴重な現場資料といえよう。

このほかにも、保健婦の活動日記を紹介した「村人と共に」(『県政のあゆみ』1965年1月号)や、保健婦の活動を助ける母子保健推進員による「妊産婦と保健のかけはし」(同、1970年8月号)がある。また「保健協力員の体験発表」と題して、62年の2月号と3月号にも連続して記事が掲載されている。『県政のあゆみ』以外では、県の公衆衛生課が編集した『青森県保健婦 現状と将来』(青森県、1975年)が当時の事情をまとめている。青森県立図書館に所蔵されているので入手可能だ。

なお、当時保健婦は文字通り女性の職業であった。そのため女性の活躍をまとめた本章第4節にも、関連資料として資料271・272を掲載している。

こうした保健婦の活動を中心に、母子衛生対策に関する記事が『県政のあゆみ』などに連載された背景には、前述した花田ミキの活躍が大きく関係している。彼女は県の保健衛生当局で指揮を執っただけでなく、現場で働いた実績もあり、数多くの執筆活動に携わってきた。花田については数多くの文献が出版されており、図書館などでの閲覧も比較的容易である。そのため本節では、花田以外に各方面で活躍した人々を紹介することにした。

しかし花田が広報や新聞・雑誌などに執筆した記事や各種の文献は、当時はもちろん、今後の衛生問題を考える上でも大きな示唆を与えるものと言えよう。そのため、ここでは花田の生涯を描いた最近の成果として、松岡裕枝『花田ミキという生き方』(東奥日報社、2010年)を紹介しておく。

青森県史資料編近現代6』(2014年)413~414p

https://kenshi-archives.pref.aomori.lg.jp/contents/kenshi-front/

「花田ミキ」と検索すると、花田ミキさんのお名前が出てくる記事が出てきます。

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