水漬(ミヅ)く屍(カバネ)

身に巻きて海にただようそなえする細引きなわを父にたのみき 
ある日父は水漬く屍と覚悟せんければならぬかと書きてよこせし 
早暁に神もうでせしと社(ヤシロ)の名数多(アマタ)並べし父のふみ来し
昭和十七年(一九四二)ごろから輸送船が次々に撃沈され、南の海は死の海となった。
撃沈されて海に投げ出されたとき、浮遊物をみつけて体をゆわえて、できるだけ浮かんでいるために、縄を用意するように命令され、ふるさ
との父に手紙でたのんだ。
細引きなわとともに、「水漬く屍と覚悟せんけりゃならぬか、早朝に神社を手あたり次第拝んで歩いた」と手紙もきた。
「鎮魂のうた」57p

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