~20世紀におくる~鎮魂のうた
藻のからむ身を投げし兵の病衣更え検視をしたる似島(ニノシマ)の浜
明日、患者が上陸するという前夜、宇品港に碇泊していた病院船から、投身した患者があった。
翌日、港内の似島浜で検視した。
ほかにもときに、病院船から投身する兵があった。
航海中に、投身をするかも知れないとおもわれる患者には、看護婦が、二十四時間ついて見守った。
神経を病む患者が多いときには、ひとときも気を抜けなかった。
その目を盗んで、故国の海に投身した兵がいたのである。故国の山をのぞみ、明日は上陸というのに、何を考えたのか?
白衣の姿で、故国に帰ることを恥じたのか、戦争の惨禍の中に身をおいて、消すことのできない思いに身を攻めたのか?
問いかけても、小波に現れたかばねは、何も語らなかった。