生きたカルテ
ある村のカッチャはいった。
「男がいないので、村の女たちは、重いものをかつぐ。お産のあとも、すぐ働かねばならなかったから、子つぼがおりた人はなん人もいた」
出かせぎ風ものがたりと笑いながらかがして聞いてはいられない。出かせぎの起伏は、人情の機微にまで深く関わっている。ひとりひとり、真剣にもちかける相談を受けるのは保健婦。
母と子のことだけでなく、ねたきり老人の看護のし方や、成人病の防ぎ方などをひろめ、結核でねている人を訪ねては、医師と連絡をとり合う。人の暮らしに密着して、多様な健康の問題に、キメこまかくとりくんでいる。
この"生きたカルテ”ともいえる保健婦は、いま県内に二百八十人いる。精いっぱいやっている。だが、まだ人数は足りない。四百人はほしい。地域には居宅で看護が必要な人は、人口十万人のうち三百二十人はいるはずだから。
北欧までは道は遠いとしても身近に、”生きたカルテ”がめぐり歩く日を待ちたい。